伝統工芸と旅をしてみる4

新しい伝統工芸?

だんだん分からなくなる… 金沢 Kanazawa


正直な話、実は思うことがあるんです。

 

伝統工芸ってなんなんだ?

 

ここへ来てそもそもな話になりますが。

いろいろな伝統工芸を見てきて、逆にだんだん分からなくなってきたことが多くあります。

このブログの初回で、伝統工芸を自分なりに「その土地で数百年にわたって続いてきた家内制手工業」と定義しました。

基本的にはそれでいいと思っています。

でも実は、そこにははまっていないけど、自分の中では伝統工芸と認めざるを得ないものもあります。

現代風アクセサリーなのに


たとえば、金沢での話です。

その方と作品に出会ったのは、本当に偶然でした。

何年か前に金沢に仕事があって行った際、少し時間があったので街を歩いてみたんです。

兼六園のあたりから歩き出して浅野川にかかる梅の橋を渡り、東山のひがし茶屋街を抜け、さらにぶらぶらと散策していたところ、気になる建物が目に入りました。

町家です。

しかも古い雰囲気を残しつつ上手にリノベーションしたようで、小ざっぱりとした町家でした。

 

「なんだろう?」

 

のぞいてみると、女性の作家さんが1人でアクセサリーを作っているところでした。

銀細工を作る工房兼ショップのようです。

 

せっかくなのでお邪魔して作品を拝見させてもらううち、思わず唸ってしまいました。

いわゆるアクセサリーなんです。

ネックレスや指輪、ピン、女性が日常で使ってまったく違和感のないアクセサリーです。

現代風です。でも、でもどこか、伝統工芸の匂いがします。

「これはなんなんだ?」と思いました。

いや、その時の気持ちを正確に思い出すと、むしろ混乱したと言っていいかもしれません。

 

その方は秋友美穂さんという金工作家で、本人に許可をいただいたので、実際の作品を見てください。

「柿の種」という名のネックレスだそうです。

 

柿の種とピーナッツ。

本人曰く

「柿の種がネックレスになってたら、きっとそれに気づいた相手と会話が生まれると思うんです。それを狙って作りました」

 

もちろん秋友さん自身、柿ピーが大好きだそうです。

これは伝統工芸というより、現代アートの作品という感じです。

 

次にこれを見てください。

同じく「ちっちゃわん ちっちゃせん ピンズ」です。

 

これも普段からワンポイントに使えそうなピンですが、モチーフになった茶碗と茶筅は、ともに茶道に欠かせない道具です。

そして言うまでもなく、金沢といえば茶道が盛んな街です。

このピンがきっかけで、やはり会話が生まれそうです。

金沢の伝統をモチーフに、現代のアクセサリーが生まれたわけです。

 

これはどうでしょう?

「てまりネックレス」

 

きれいなネックレスなのですが、その名前の通りに和の香りと、どこか伝統工芸の雰囲気を感じます。

こういった作品をいくつか見ているうち、ふと「これは新しい伝統工芸かもしれない」と確信してしまいました。


新しい伝統工芸?


金沢は金箔が有名ですが、他にも本当にたくさんの伝統工芸があり、金工という金属工芸もその1つです。

また、その技術を次の世代に伝えようという取り組みも地域ぐるみでかなり熱心です。

冒頭の秋友さんがいた町家の工房兼ショップも、金沢市が若手育成の一環として、期間限定で設置したプロジェクトだったそうです。

 

実際、いま金沢では若手作家が元気です。

歴史に磨かれた技術を背景に、金沢の文化を感じさせる物事をモチーフにして、現代風の作品を作る。

おもしろいなと、純粋に思いました。

伝統工芸の技法を使ったアートのような作品がどんどん生まれています。

道具として日常で使えるアーティスティックな作品が次々と生まれています。

ポップな色使いでいかにも現代風でありながら、実は形は伝統工芸の手法を守っている作品だったり、逆に一見いかにも伝統にのっとった色使いで、実はまったく自由な形だったり。

 

「さすが金沢!」

 

歴史と文化が根付いていると、新しい感性と相まってこういう化学反応が起きるんだなと、嬉しくなります。

前回紹介した若手の焼き物作家とは正反対のアプローチにはなりますが、技術と考え方をしっかり身につけたうえで、伝統工芸を自由に飛躍させるのも、それはそれでおもしろいなと思います。

 

自分なりに再定義すると


というようなことを目にしたうえで考え出すと、「結局、伝統工芸ってなんなんだ?」と悩むわけです。

 

自分は専門家ではないのでそこを突き詰めて答えを出す必要はありませんが、紆余曲折そんなことを考えるのも、実は愉しみでもあります。

それを踏まえて、伝統工芸を自分なりにもう一度定義してみると、

 

「その土地に伝わる伝統的な技法を使って、職人が誇りを持ちながら作る手工業」

 

となりそうです。

うん。確かに今ならこっちのほうが、しっくり来るかもしれない。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。

東京の桜も、だいぶ満開に近くなりました。

花見をしてたわけではないのですが、今回はアップする時間が遅くなってしまい失礼しました。

次回はいよいよ5回目、最後の回です。

日本各地の職人さんから聞いた、正直少し厳しい今の環境、一方で実際に自分が見て感じたこれからに向けた希望をまとめます。

ちょっと力入りそうです。