伝統工芸と旅をしてみる5

伝統工芸の今

現実はなかなかに…


伝統工芸の職人さんから少し深く話を聞くと、厳しい現実も見えてきます。

純粋に職業として見ると、職人さんたちの生活は必ずしも楽なものではないようです。

なかには高名な職人さんもいらっしゃいますが、全般的に見ると厳しい部分も多くある。

職人さんの声をまとめると、問題の1つはわれわれ一般消費者が伝統工芸品に触れる機会が少ないこと、もう1つは価格水準にあるようです。


まず触れる機会がない


「触れてもらえばきっと良さを分かってくれるけど、そもそもその機会がねえ…」

という声をよく聞きます。

 

東北のある職人さんは

「バブル景気の頃までは、大手のデパートが買い付けにくるケースもわりとあったんだけどねえ」

と、遠い目をしておっしゃってました。

今ではそれもだいぶ減ったようです。

 

もっと切実な話もありました。

九州で江戸時代から親子代々続いてきたというある職人さんです。

 

「ここで良い物作ってても、たくさんの人に見てもらって、選んでもらえなければそれまで。こんな田舎だからなかなか外から人も来ないし、同じ道具でももっと安い物なんていくらでもあるし、この先この仕事で食べていけるか分からないし、そんな状況だから息子は公務員にしちゃったので、もう私の代で家業はおしまい」

 

穏やかな口ぶりで最後は「ははは」と笑っていましたが、内容は苛烈そのものです。

伝統工芸の今は、日本の地方が抱える今そのものであるようです。

部外者が失礼なのかもしれませんが、この話を聞いたときは本当に胸が炙られるようで、焦りというか「時間切れになる前にこの文化をどうにかしたい」と率直に思いました。

それにしても本当にやるせなくて寂しい話です。

次に待つ値段の壁


「良さは分かってくれるんだけど、値段を見て驚く人も多いねえ…」

 

そんな話もよく耳にします。

確かに、純粋な値段だけで見てしまうと、最新の工業製品に比べて伝統工芸品は安くありません。

どれも手作りで一点物なのだから当たり前ですが、同じ道具でもたとえば100均で買えるものが数千円からといったレベルです。

作られていく様子を見ればそのぐらいの価値は実感できるし、手が出ないほど高いわけでもないのですが、贅沢品と言えば贅沢品です。

だからむしろ、旅の記憶としてのお土産にはちょうどいいんですけどね。

 

伝統工芸品は長く使えるとか、使い込むうちに味が出て愛着が湧くといった長所はありますが、正直、生活用品のすべてを揃えるとなると、やはり想像がつかないかもしれません。

世の中に安い物が増えすぎたということでしょうか。

値段もさることながら、同じ道具なら最新の工業製品は手入れが楽というのもあります。

手入れが楽というか、手入れをしないでダメになったら買い替えるというサイクルの方が、今やより一般的で現実的かもしれません。

 

それでも多くの職人さんが「見てもらえば良さを分かってくれる」と口を揃えて言うように、まず見てもらって、質の高さを知ってほしいという気持ちは強いようです。

実際、使ってみると質の良さを100%実感できます。


海外からの熱視線


一方で、外国からの関心が高まっているのは、明るい話題です。

ビジットジャパンキャンペーンやオリンピック効果で海外からの旅行者が増えていますが、実際伝統工芸の世界でも「外国人はすごいんだよ」とよく聞きます。

中国人の“爆買い”が話題になりましたが、伝統工芸の産地に行くと中国人や東南アジア系の人たちが数万円から時には数十万円単位で買っていく姿も珍しくありません。

 

その勢いの凄さというか、ストレートに言えば財力の凄さというか、時代はアジアなんだなあと、驚かされます。

あそこまで行くともはや輸出の勢いですから。

またある職人さんからは「ヨーロッパから同業者の視察団が来て驚いた」と言った話も聞きました。

ヨーロッパも古いものを大切にする文化、そういう面では通じる部分が多そうです。

国境を越えた職人さん同士の交流となると、ありそうでなかったんでしょうね。

まだまだ伝統工芸

そういった話を聞くうちに、思ったことがあります。
1つはもっと多くの日本人に伝統工芸のおもしろさと良さに触れてほしい。
次に、この機に外国の人にももっと日本の伝統工芸を知ってほしい。
電化製品やアニメだけじゃなく。
伝統工芸はただの品物ではなくて、文化そのものだから。
いいものは、時代と場所を越えていけるはずです。
逆に、伝統工芸は日本だけじゃなくて、世界中にあるわけです。
それを巡ってみるのも、またおもしろそうだなとか。
そこで見たこと、知ったことを日本の職人さんにうまく伝えられたら、金沢のように化学反応が起きてまたなにか新しい作品が生まれたり――。
いずれにしても職人さんが「自分の作品を見てもらえれば」と言っている間は、まだまだ将来への可能性があるはずです。
やはりまだまだ奥深くておもしろい世界だなと、あらためて感じています。
だから自分も、まだまだ熱が冷めることはなさそうです。

新しいテーマで

5回にわたって、伝統工芸の現場を見てきた印象などをまとめてきました。
ここの内容は、伝統工芸に興味を持つ一人でも多くの人に目を通してもらって異論反論反響を知りたいと思ったことであり、同時に結果的に自分自身の考えを整理するためのものにもなりました。
“コンセプトブログ”とでも言うんでしょうか?
これからも少しずつ、電子雑誌を作る準備を進めていきます。
でも発行できるまでもう少し時間がかかると思うので、それまで別企画でなにか書き綴って行ってみます。たぶん不定期で。
新シリーズ(!?)は「CraftArtist修行の記」といったタイトルになりそうです。
もっと広く、少年の目と大人の目をもって知己を深めないと。
縁があって近いところでこの4月末に金沢、5月には唐津、波佐見に行ってみる予定です。
そのうち京都にもきっと行きます。
そこで見たこと、感じたことを文章と写真でスケッチしてみます。

随時公開しますので、Facebook、インスタグラムをチェックしてください。
よろしくお願いします!