国内外を問わず、旅することが好きです。
その中で、いつ頃からか思うようになりました。
「旅先で地元の人と1人でも会話すると、その土地の印象がぐっと深くなる」
素晴らしい景色、おいしい料理、普段はできない体験、それらはもちろん旅する醍醐味だと思います。
でも旅に人との出会いが加わると、段違いにその土地に対する親密度が上がります。
日常生活に戻ってからも、ふと「今もきっとあの人たちは、あそこで話したり笑ったりしてるんだろうな」と、思えば当たり前のことなんですが、そんな光景が頭に浮かぶ。
その瞬間、自分の世界が旅に出る前より少し広がっていることを実感できます。
しかも、それが目の前で技を繰り出す伝統工芸の職人さんだったら、より強烈な印象として残るわけです。
たとえば、東京の千駄木で飴細工ができるまでのこんな様子はどうでしょう?
まずは小道具のカボチャを作ります(53秒)
次に同じく箒を作って…(1分20秒)
あめぴょん本体を作ったらカボチャと箒を持たせて、顔を描いて完成!(2分17秒)
※この動画だけ少し長いので、流すスピードを1.75倍に速めています。
千駄木の団子坂の上、「あめ細工吉原」での1コマです。
店内に飴細工がたくさん並ぶ一方で、頼めばその場で飴細工を作ってくれます。
本物の職人技を目にすると、見とれてしまってため息しか出ません。
無駄なく滑らかな動き、プロの仕事は見ているだけでエンターテインメントです。
大人はもちろん、むしろ子どものほうが強く引き込まれている姿をよく見ます。
この時はハロウィン前だったので、吉原さんオリジナルのキャラクター「あめぴょん」をハロウィンバージョンで作っていただきました。
まずはねりねりっとカボチャを作り、箒とマントも作って、そしてあめぴょんを作ったら、最後にライターで軽くあぶって表面を溶かし、パーツを合体させる。
一連の流れに見とれ、完成して手渡されると「ほぉー」とため息が出て、それから我に返る感じです。
すると当たり前のように会話が生まれますよね。
「すごいなあ。材料の飴は溶けてるんですよね? 何度ぐらいあるんですか?」
「熱くないんですか?」
「他にはどんなのが作れるんですか?」
などなど。
伝統工芸が生まれる場所に行ってみると、それを体験できる工房が増えています。
職人さんが実演販売していたり、観光客自身が作る体験ができたりといった施設です。
その体験工房に行くと、わりと気軽に職人さんと話をすることができます。
たいていは先ほどの飴細工のように「すごいですねー」から始まって、どんな風に作っているのか、この仕事を始めて何年になるかなんていう話につながっていく感じで。
しかも聞けば聞くほど、職人さんの話はおもしろい。
どんな風にこの仕事を始めたのか、どんなことを考えながら向き合っているのか。
作品だけでなく、その地域の文化や暮らしの話があって、だからこの伝統工芸が生まれたと続いたり。
聞くほどにこだわりが伝わってくるし、職人さんの目に映っている世界と自分が感じている世界の違いに気づいたりもします。
しかも前回も書きましたが、話をしていると最低一度は「ぷっ」と笑わせてくれる。
伝統工芸品という答えのない1つの究極を追い続けているからでしょうか?
不思議なぐらい共通しているのが、たいていの職人さんは穏やかさの中にピリッと鋭い視点を持っていて、言ってしまえばおおらかなユーモアの中に必ず少しの毒がある。
その結果、不意打ち的に真似しがたいウィットがポンと飛び出てきます。
伝統工芸品を眺めていて飽きないのは、歴史に磨かれ続けた機能美に加えて、それを作り続ける職人の人間性が隠し味に効いているから。
こう言うと乱暴かもしれませんが、おもしろい人ほど味のある物を作るのかもしれない。
最近ではそんな風に感じています。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。次はまた1週間後、3月25日にアップします。
若手とベテラン、それぞれの職人さんからとても興味深い話をうかがいました。
若手の職人さんの禅問答に取り組むような姿勢、ベテランがみせた果てしない底力に脱帽です。
伝統工芸がおもしろいです。
自分自身は職人でもなんでもありませんが、ここ数年たくさんの日本の伝統工芸に触れる機会がありました。
たとえば秋田・大館のまげわっぱ、山形・鶴岡の絵蝋燭、北海道のアイヌ刺繍、東京・千駄木の飴細工、金沢の金箔や、京都の版画、広島の熊野筆、佐賀の唐津焼に、沖縄では壺屋焼や琉球ガラスなどなど、全国でバリエーションと個性が豊かな伝統工芸に出会いました。
国が認めた伝統工芸となると「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」というのがあって、経産大臣のお墨付きが必要になるそうです。
でも個人的には、もっと自由でおおざっぱに
「その土地で数百年にわたって続いてきた家内制手工業」
それを伝統工芸と捉えています。
だからたとえば、信州の蕎麦や讃岐のうどん、土佐のかつお藁焼き、そして京料理といった各地の食文化、加えて日本酒や焼酎だって伝統工芸と呼びたくなるし、実際にそれらが生まれる場所に行ってみると、これはもう伝統工芸としか思えないと感じます。
その伝統工芸が生まれる土地土地を一度訪れると、忘れっぽい自分なのに不思議なくらいに記憶から消えない。
けっして派手な場所ばかりではないのに。
「この感じはなんなんだ?」
自分なりに考えてみたところ――。
いい街で、魅力的な人が、いいものを作る文化
その3つが凝縮されるから、いつまでもしみじみとおもしろいんじゃないかと。
まずはやっぱり、作品そのものが発する雰囲気、親密なオーラです。
伝統工芸品もいろいろですが、共通する特徴をおおざっぱに言ってしまえば、穏やかな形や色合いと、それが生む佇まいだと思います。
柔らかい線と色彩の感覚、手にすればしっくりくる形。
あのさりげない存在感はなんなんだろう?
「いい役者は舞台上の空気の色を変える」と言いますが、伝統工芸品もそこにあるだけで周りの空気を落ち着かせる雰囲気があります。
しかもいつもすごいなと思うのが、見た目だけでなく、日常生活で使う道具としても一級品なところです。
考えてみれば当たり前ですよね。
形も機能も、何百年にもわたってたくさんの人に使われてきたうえで、今でも続いているわけですから。
芸術的ではあるけど、芸術品ではなく、日常生活で役立つ優れた道具。
だから手にした時の感触も大事で、目で触れて、手に乗せると、不思議と穏やかな気持ちになってくるのが不思議です。
伝統工芸が息づいている場所は、実は旅先としても魅力的です。
伝統工芸品は、基本的に今でもその土地にある素材を活かして作られています。
だから産地の近くにはたいてい豊かな山があったり、きれいな水がふんだんに流れていたり、真っ青な海が広がっていたり、代々住み続けている人が多くいる街だったり。
「いいとこだなあ」
歩くと思わず、そう小さくつぶやいてしまう場所です。
自然が豊かで、人がいて、歴史もある。だから文化がある。
京都や金沢はまさにその典型ですが、伝統工芸と関係なく、純粋な旅行先として選ばれる場所も多くなるわけです。
加えて伝統工芸を生みだす人、職人さんも、話を聞くとたいていがものすごく魅力的な人たちです。
代々続いている家業を継いだという人は、ずっと親の仕事を見ながら育って、若い頃に「んなもんやりたくねえよ」と思った時代を経ながら、でも今では高いプライドを持ってやっているとか。
一方で、「親は会社員です」なんていう人が工芸品に魅入ってしまい、師匠に弟子入りして一人前の職人になってしまうとか。
背景にたくさんのドラマがあって、それぞれのポリシーを持ちつつ、いろんな想いで真剣に伝統工芸に向き合っている。
それが滲み出るから、みんな“いい顔”してるんです。
しかも、話すとおもしろい。
初対面だから最初はお互い固いけど、少し話してみると、控えめに笑ってくれるような。
そのうち「へー」と感心させられつつ、「ぷっ」と笑わせてくれるような。
「伝統工芸品」そのものはもちろんですが、いい街で、魅力的な人が、いいものを作る。
それが揃ってできる「伝統工芸」という文化がおもしろいんだと思います。
ブログ1回目は以上になります。
3月11日、伝統工芸の世界を未来につなげられたらと、あえて特別な日に公開しました。
次は1週間後、東京千駄木の職人さんに協力していただき、飴細工のオリジナルキャラクターができるまでの動画を、アップする予定です。
やっぱり凄い技です。