Vol.4 バリ島 行き当たりバティック

2016.8.5

Thank you for Bali and Mr.Boyan.

IPPEI OTAKE

7月、海の日の連休につなげて計6日間の休みを取りました。最初の目的は香港ブックフェアを見に香港へ行くこと。

ただ、ふと香港からバリ島への飛行機を調べたところ、びっくりするぐらい料金が安い。

だから、というのも変ですが、じゃあバリ島へも行こうかなと。

バティックの工房が見たかったのが1つ、でも我ながら唐突に決めたバリ行きは、きっとあの島の神様に呼ばれたからでしょう。

 


アロハからの染め物系

 バリ島へ行ってきました。
 いや、本当の目的は香港だったんです。
 毎年7月に香港ブックフェアというのがあって、だいたい海の日の連休あたり、プロ野球好きならオールスター戦の頃に開かれます。アジア最大のブックフェア、と言ってもピンとこないかもしれません。東京ブックフェアも今年は9月に開かれ、本や雑誌のお祭りみたいなもので、特に香港ブックフェアはアジアやアメリカ、ヨーロッパと、たくさんの地域から出版関係者が集まるので、行ってみるとちょっと刺激になります。

 で、そのついでにと言っては大変失礼ですが、バリ島へ行きました。
 香港からバリ島のデンパサールって、調べたら片道1万5千円ぐらいで行けるんですね。しかもLCCでなく、(あの)マレーシア航空で。3連休に3日間の休みをつなげていたので、休みは6日間ある。ならば日程の前半はバリで過ごそうと。
 香港に出発する少し前に、そう決めました。

 バリ島には2年前に一度行っていて、噂通りにおもしろいところだなと思っていました。海はきれいだし、山は深いし、神様の島だし。文化が独特。アーティステックな島で、木工、石、銀、染織といった工芸品もたくさんあります。
 今回は、バティックの工房が見られたらいいなあと思って、行ってみました。
 なぜバティックかというと、数年前からアロハシャツに少し興味を持ち出し、その目で見てみると、太平洋一帯に似たような染め物系があることに気づきました。沖縄のかりゆしウエアがそうだし、タヒチのパレオがそうだし、バティックがそうです。それでなんとなく、バリに行くならバティックだろう、と。

 

バティックとは(デジタル大辞典より)

ジャワ島付近で作られる伝統的な文様染め。

蝋(ろう)で防染して文様を表した綿布。

インドネシアではユネスコの無形文化遺産に登録されている。

ジャワ更紗(さらさ)。

 

(BALI BIDADAR BATIKで買ったバティックのシャツ)

 

 

ジンバランからウブドへ

 今回、東京から香港の航空券は先にとってありました。追加で香港からバリのデンパサール往復を手配して、香港に着いた日の夜、バリへ向かうことにしました。
 香港から東京まで直線距離で2,887キロ、デンパサールは3,460キロ。
 香港から先のほうが移動距離長いですね。それもそのはず、バリ島は赤道の向こう側、南半球です。
 その割に、航空券は日本~香港間の半額以下でした。もちろん安いだけあって往復クアラルンプール経由、往きはクアラルンプール空港で1泊というスケジュールです。

 バリに行き着くまでに時間をかけてしまったので、島のホテルは空港から近く、タクシーで20分ほどのジンバラン地区にあるThe Open Houseというホテルをとりました。同じく空港から近いクタという地区はバリ島で一番賑わっているのですが、ちょっとうるさすぎて、好きじゃないので。
 ジンバランは静かな漁村で、バリ島に少し詳しい人なら沈む夕陽がきれいなビーチと、海に沿ってシーフードバーベキューの“ジンバランカフェ”が並ぶことで知られた場所かもしれません。

 バリで終日時間を使えるのは、中日の1日だけ。着いた日、ホテルの人に「明日はウブドに行きたいから、車をチャーターしてほしい」と頼んでおきました。
といっても、めちゃくちゃ片言の英語です。
 ホテル手配で1日8時間で750,000ルピア、単位が大きいのでたじろぎますが、日本円にすると8,000円ぐらい。
 ホテル手配なので高めなんでしょうけど、日本でレンタカーを借りてもそれぐらいかかるしなと。

 

The Open House Bali Hotel

チェックインはレストランの席で。

こじまんりとしていて、静かで、海に近くて、いいホテル

ジンバランのビーチと、名物 “ジンバランカフェ” のシーフードバーベキュー。

この日はイマイチだけど、天気がよければ、夕日の名所

 

バリ愛溢れるMr.Boyan

 翌日の朝食後、8時半の約束に遅れることなくドライバーがやってきました。
 Boyanさん。これはニックネームで、本名は忘れてしまいました…。バリ島でものすごく多い苗字なので、名刺にもニックネームを入れていると。
 そして嬉しいことに、彼がとても優秀で気の利くドライバーでした。こういう時、特にこちらも1人なので、相手との相性がいいかどうかは1日の行動と気分に大きく影響します。
 Boyanさんは気さくな人なうえ、英語がかなり達者な一方、こちらのつたない英語を聞いて受け入れようという、どっしりとした気配が伝わってきます。

 さあ、出かけよう。
 聞くとジンバランからウブドまで車で2時間から2時間半。

 日本では見かけないスズキの小型ミニバンの助手席に座って、挨拶がてら言葉を交わします。

 「バリ島は初めて?」
 「2回目だけど、ウブドに行くのは初めて」
 「ウブドではなにを見たいの?」
 「プリ・ルキサン美術館と、あとできればバティックの工房を見たい」
 「バティックが好きなのか?!」

 そこでちょっと空気が変わりました。バティックのところでBoyanさんに火をつけてしまったようです。
 こちらとしては運が良かったのですが、Boyanさんは生粋のバリ島っ子。しかもバリ愛に溢れた心優しきBalineseのようです。それから一節、バティック、そしてバリ島がいかに文化とクラフト、アートに溢れている島かの話が始まりました。

 「バティックは世界の中でもバリ島だけの文化で、蝋を使って絵を描くのが特徴なんだ。バリはもともと宗教に熱心な島だし、古くは王様がいたからその下で絵画や木彫り、石細工の技術は盛んになった。そのうえ島だから海の向こうからたくさんの人たちがやってきて、自分たちの文化とバリの文化を合わせたような文化やアートを作り出した。だから伝統工芸もアートも多様なんだ」

 そして車を走らせながら、道の脇を指差して言います。
 「ほら、そこだって銀細工の工房だ。銀細工とか絵描きとか、地区ごとに固まってるのもバリの特徴だな」

 さらに止まりません。

 「なかでもバティックはいまや世界的に有名なバリの伝統工芸として認められている。土産物屋で安く売ってるところもあるけど、あれはみんな安物でバティックではない。生地にスタンプでただポンポンと柄をつけただけだよ。だから2~3回洗濯したらすぐに消えちゃう。そんなものは欲しくないしバティックと認めたくないだろ? ちょうどウブドに行く途中に、バリの中でも有数のバティックファクトリーがあるから、そこに寄って行こう。バティックを作ってるところも見られるし、もしなんなら買って帰ることもできるから」

 おかげで車に乗って30分で、バティックを初め、バリ島の文化やアートの全体像が見えてきました。

 

そこだけ少し違う空気

 ホテルから2時間弱走ったところで、そのバティックファクトリーに着きました。

 

 「ここだよ。寄ってくだろ?」

 「うんうん」

 

 へー。ほんとに大通り沿いです。門には「BALI BIDADAR BATIK」の看板。車で入っていくと思ったより大きな建物で、バリ有数と言われて納得です。大型バスもついていて、やっぱりなという感じで大陸の人たちがたくさん来ています。正直、イメージとしてはもう少しこじんまりしていて、神秘的な山の中でおじちゃんかおばちゃんが1人ひっそりと絵を描いているようなのが良かったのですが。ちょっと観光色が強い施設です。
 まあいいか。
 おそらく建物の奥が本格的な工場なのでしょうが、敷地に入ってすぐ、建物の広いヒサシの下で数人の職人さんが絵を描いています。あ、その奥には機織りをしている人もいる。建物の中はショップで、バスで来た大陸の人たちはそっちに興味があるようで、軒下工房は意外と人がいなくて静かな雰囲気です。

 軒下工房に近づくと、蝋を溶かした匂いがしてきます。おばちゃんやお兄ちゃん数人がイスに座って絵を描いており、脇には小さな鉄鍋が置いてあって、そこで常に蝋を溶かしながら、筆先に溶けた蝋をつけて下絵を描いています。
 一筆一筆、留まることなく、急ぐこともなく、たんたんと。無駄のない動きで真っ白いTシャツに次々と柄が生まれていきます。溶けた蝋は布に滲むこともなく、色は茶色というより金色に近いように感じました。
 しばらく隣にしゃがんで眺めていても、おばちゃんはまったく気にする気配なし。集中しているのもあるでしょうし、毎日この環境で描いていれば、こういう客もたまにはいるんでしょう。突然やってきて隣にしゃがんだ野良犬と同じようなもんです。

 それにしても、不思議な空気です。
 これだけ大きな施設で、常にたくさんの観光客が出入りしているのに、このおばちゃんの周囲だけは違う空気が流れています。同じように描いている他の職人さんたちを見ても、筆先以外はなにも気にしていないのか、どうでもいいのか、その周囲1メートルだけは別世界です。
 そしてやはり、見ていて飽きない。

 

静かに黙々と描き続けるおばちゃん
静かに黙々と描き続けるおばちゃん

BALI BIDADAR BATIK

カメラを向け続ける間、ずっとこちらを向き続ける機織りおばちゃん
カメラを向け続ける間、ずっとこちらを向き続ける機織りおばちゃん

これがバリの実力か

 へー。
 いきなり見ることができました。バティックを。いや、バティック作りの一片を。
 もちろんこの前後にもたくさんの工程があるのでしょうが、残念ながらここでそこまで見るわけには行かないようです。時間的にも、数時間の日程で一通り見届けるのは無理でしょう。しかし急に思いついたような旅程で、フラッとバリにやってきただけなのに、たとえ一片でもここまで簡単に見られてしまうのは、やはりバリの実力なんでしょう。
 次回、Boyanさんに相談して、今度はもう少しこじんまりした工房へ連れて行ってもらおう。
 結局、売店でバティックのシャツを1枚買って、BALI BIDADAR BATIKを後にしました。

 

暴走を始める個人的伝統工芸感

 まあバティックの工房も見られたし、満足は満足だな…。と思いつつ、一方ではむしろ気になっていることがありました。
 バリ島のバティックと、ハワイのアロハと、タヒチのパレオ。
 どれも関係なさそうだけど、柄や色彩は似てなくもない。もちろんその中でバティックは独特の渋い色遣いではあります。でも。それぞれの島は太平洋を遠く離れているけど、なんとなく繋がりを感じます。特に布地に描かれた柄が似ています。
 タヒチとハワイは、大昔にタヒチアンがカヌーで渡った先がハワイらしいので、これは繋がる。色彩的に、パレオの感覚を取り入れたアロハはよく見かけるし。
そしてアロハは日本からの移民が着ていた絣(かすり)から生まれたそうなので、日本とハワイもつながると。

 

 じゃあ、バティックとアロハ、バティックとパレオは? もしくはそれらと絣(かすり)は? まったく繋がりはない?

 

 ある一点は見えたのかもしれない。でもその先に続く全体像があるような気がして。それがあるのかないのか、知りたくなってきました。
もし、バティックに日本のかけらが入ってるとしたら、南洋、あの戦争は関係してくるでしょう。じゃあパレオは?
 日本人が一番無邪気に楽しむことが許されるのは、パレオなのか?

 バリの旅はこの後もBoyanさんと話しながらウブドの中心、プリ・ルキサンへ向かったのですが、ブログのバリ島編はいったんここで終わってしまいます。
もちろん、プリ・ルキサンは素晴らしかったです。バリ芸術の源と、バリのたくさんの古い物語を活き活きと感じることができました。なにかが聴こえてくるような絵ばかりでした。
 でも、僕のテーマとココロは、アジア環太平洋地域(大きく出ました)の布問題に向かってしまったようです。

 こうなると個人的な伝統工芸感も、だいぶ暴走しだしました。
 とはいえ、勝手に抱いた謎を解くことは?? できるのか???
 いいです。いろいろなものと世界を見ながら、時間をかけてじっくり追って行こう。
 精神的ヒマ人の旅はまだまだ続きます。

 

Ubudは思ったよりも大きく都会の街で、そして思った以上に人が多い。

現地の人の発音は「ウブド」ではなく「ウブドゥ」

 

Puri Lukisan Museum

Puri は「王宮」、Lukisanは「絵画」。水と緑が豊かで、バリらしい美術館。

「プリ・ルキサン」と言わないで「プリ・ルクサン」のほうが近い

 

Boyanさんの案内で、ランチは「I MADE JONI」というレストランへ

田んぼを見ながらBEBEK BENGIL (ベベッ・ブンギル)というバリ料理

アヒルのディープフライ、クリスピーでビールに合ってうまい!

バリの人は宗教的な理由から、肉といえばアヒルを食べるそう

そして忘れてはいけないのがバリの米、はんなり甘くてうまい!